2月12日開催「Industry-Up Day 2020 Spring 」の各セッション登壇者へのインタビュー特別企画。第二弾は聴診器デジタル化デバイス「ネクステート」を開発するシェアメディカル社の峯社長。そして産業界と医療界を繋ぎ、医療分野におけるAIやICTの社会実装を推進する聖マリアンナ医科大学大学院医療情報処理技術応用研究分野の教授であり、デジタルヘルス共創センター副センター長も兼任する小林先生の対談記事です。AI・ICTが医療業界にもたらすインパクトや産業界と医療界が共創する重要性について確認する対談となりました。

写真:聖マリアンナ医科大学大学院医療情報処理技術応用研究分野 教授
デジタルヘルス共創センター 副センター長
一般社団法人聴診データ研究会 理事 小林泰之 氏

患者視点の医療のデジタルトランスフォーメーションを実現するには?

 お忙しい中ありがとうございます。急遽、遠隔診療に関する実証実験に参加することになりまして、今日は遠隔からの参加となります。小林先生には医療の課題や医療と産業の連携の意義についてお聞きしたいと思っています。

小林 よろしくお願いいたします。私たちがご一緒している「ユビキタスヘルスケア産業」について、峯社長はどのように考えられているのでしょうか?

 ユビキタスヘルスケアとは何なのか?というのを説明する機会があり、自分なりに概念として一番近いのが産業分野で現在盛んに取り組まれているDX、つまりデジタルトランスフォーメーションであると考えています。単純に聴診音をデジタル化するだけであれば、それはデジタライゼーションしただけです。

DXの本質はテクノロジーによって生活や労働、会社経営などを根本から変革することとされています。医療におけるDXとは「医療者が働きやすい環境で医療を必要としている人に必要なタイミングで医療を届ける」この一点に尽きると思います。

テクノロジーを使って時間と空間を超えて、偏在している医療を普遍化していく。ユビキタスヘルスケアでは、医療者と患者、そして社会のいずらにも負担がかかること無く、誰もが必要な時に医療資源にアクセスできる世界を目指していきたいと考えています。そのために医療と産業の協力が大切だと思っています。

小林 医療と産業が手を取り合うことには賛成ですね。私は異業種混合戦が大切と常に言っており、積極的に企業と連携し研究開発やテクノロジーの社会実装に取り組んでいます。ただ、患者に役立つものは何かという軸で医療と産業が手を取り合わないといけないと考えています。

以前、とある企業と医療機器を共同開発した際に「どんな製品を作りたいですか?」と企業側に聞いたら「放射線科医や診療放射線技師にとって最も使いやすいものを作りたい」と言ってくれました。

医者が臨むシステムを作れば、結果として患者さんの役に立つという発想なので嬉しい反面、開発するのであれば患者に役に立つことをベースに考えて欲しいとも思いました。その時は、主治医や臨床現場で働く人たちに話を聞き、患者さんの役に立つような医療製品を作って欲しいと企業側に提案しました。

私が講演する際にハーバード大学のブリンガムのZiad Obermeyer先生先生の論文の最後の3行を紹介します。そこには「AIの最大の勝者は患者さんである」と書かれてあり、患者さんのためにということが根幹であると感じています。なので、「必要な医療を必要な人に届ける」ために医療におけるデジタルトランスフォーメーションを実現するという目的には僕も同意いたします。

 医療におけるデジタルトランスフォーメーションの実現にあたって、乗り越えるべき壁はありますか?

小林 医療における個人情報の取り扱いの問題がありますね。これはクレジットカードの普及に習うべきだと思っています。カード会社に出す情報は個人情報ですよね。

銀行の情報は究極的な個人情報なので、初めは個人情報を渡すなんかできないよという人が多かった。しかし、 今はクレジットカードがないと生活できませんし、使う意義も分かった上でみんな個人情報をクレジットカード会社に預けます。

クレジットカードと同じく国民が自身の個人情報をどのように利用されて、メリットがあるのか説明して納得してもらわないといけない。医療側だけでは解決できませんので、医療以外の企業も巻き込んで、医療従事者は当然知っている状態で、国民全員が知っていく状態にしなければいけません。

 昔、銀行のATMにスキャナーをつけて紙でもらう医療情報をスキャンして銀行に管理してもらうアイデアを考えたことがあります。高齢者にスマホやアプリを使ってもらうのはなかなかハードルが高い。でも、高齢者の方も銀行行って預金下ろすことは当たり前にできる。そのメタファーと銀行の信頼に医療側が倣えば・・と考えました。

小林 医療問題についてお話をすると、問題はたくさんあります。しかし、一番の問題はこの国の医療に関しての喫緊の課題を国民が正しく知らないことだと思っています。地域包括ケアや地域医療連携で医療がどう変わっていくか知らない方が多い。また、医療費高騰に目を奪われがちですが、何が高騰の原因なのか?実は高齢化ではなく、医療の高度化の影響が大きい、などは多くの人に知られていません。

 我々はコンビニで数%のポイントの有無でお得になった、損したと一喜一憂しますが、社会保障費として毎年計上される40兆円、50兆円という単位になると身近に感じられなくなり、どこか他人事になってしまい、国民は医療が今どうなっているか関心が薄れてしまうのではないかと思います。

小林 より根本的な問題は医療従事者さえ知らないことが多いことですね。医療従事者が知らないから、当然国民も知りません。国民が知らなければ、政治も動かず医療制度も変わりません。今医療で何が起こっているかを知らないことが問題だと思っています。

 こうした現状を打破するにはテクノロジーを活用してある程度合理化していく必要があるかと思いますが、日本がAIやICTを使っていく上でモデルとなるような国はありますか?

小林 AIやICT化を活用し、国民情報を集約化している事例がデンマークだと思っています。デンマークはヨーロッパで最もIT化が進んでいる国の1つですが、高齢化が進んでいる一方で毎年GDPを増やしている国です。国民データを統合し、AIやICTを使って医療を効率化しています。デンマークのようなモデル国に日本が近づいていかなければ、日本の医療は大変なことになると思っています。

AIやICTの医療へのインパクトとは?

 小林先生は企業と連携しテクノロジーの社会実装やAI教育を学生に行っていますよね。今後、AIやICTによって医師の仕事はどのように変わっていくのでしょうか?私がお会いしたとある医師は医療データを定義する仕事に医師の仕事がシフトするのではないかと考えていました。

小林 間違いなく医師の仕事内容は変わっていきます。AIやICT化人間の仕事が機械に奪われるということではありません。みなさん本質を誤解しているように思います。田坂広志さんが『能力を磨く AI時代に活躍する人材「3つの能力」』という本の中で人間は機械に次のような能力では勝てないと言っています。「無制限の集中力と持続力」、「超高速の論理的思考」、「膨大な記憶力と検索力」、他にも人間が長年の経験によって培われる「直感」でさえAIに代替されると言われています。大量生産後にはコストにも勝てないとも書かれていました。この話だけ聞くと絶望的な気分になります。

一方で、人間はAIや機械ができない、より高度な仕事に時間を使うことができる。AIは人間の能力を大きく開花させる産業革命なのだと田坂広志さんは書かれていました。テクノロジーの発達によって医療が高度化・効率化され、医師が時間的にも精神的にも解放される。そして、医療の原点である人を癒すことに医師が集中できることを意味していると私は思っています。AIやICTをツールとして医師が使いこなすことができれば、そのような未来がくるのではないでしょうか?

10年後には来ないかもしれませんが、20年後には医療者が行っている仕事のほとんどはAIがとって変わるかもしれないと考えています。AIやICTはすべての医療問題を解決するといえるかもしれません。

私の専門である放射線科医の仕事については、 深層学習の先駆者であるジェフリー・ヒントン先生が放射線科医の画像診断は全てAI化されるので、放射線科医はいらないと以前発言をしていましたね。笑

 笑。医療と産業が手を取り合って医療課題に立ち向かうにあたり、何が大切だとお考えですか?

小林 10年、20年のスパンで社会がどうなるかを見据えて研究していくことも必要ですが、私自身は3から5年先を見据えて技術を社会実装して医療問題を解決し、イノベーションを起こしていきたいと考えています。今は医療が危機的状況にあるので、私は医療の高度化と効率化を進めるためにも社会実装を積極的に進めていきたいですね。

 

社会が指数関数的に成長していく中で、常識を超えて考えていくために我々が大事にすべきことが二つあります。一つは異種混交格闘技戦であること。医療だけでクローズドに考えず、医療に様々な産業技術を組み合わせていくこと、それが新たな価値を生み出していくと思っています。

もう一つは20、30代前半の若い世代の人たちの若い力や発想力を社会にどう取り入れていくかを真剣に考えること。この2つは日本だけでなく、医療にAIやITを応用していくために必要な考え方だと思っています。峯社長の取り組みにはとても期待していますよ。

 ありがとうございます。笑  そうですね。ベンチャー界隈では経営者の情熱を表すのに「経営者の熱量が高い」という言い方しますが、これからは経営者だけでなく、会社全体、つまり社内に何かを生み出す多数の発熱源があるべきだと思っています。

それが多職種・多年代に伝搬して会社全体、そして取引先やパートナーすら熱量が高い状態、言わば会社のエントロピーの大きい企業同士が水平分業で社会課題に立ち向かう社会になると信じています。なので、資本や会社規模関係なく異種混交格闘戦的なプロジェクトベースのコラボを進めていきたいと思います!

小林 これからの時代を変えていくためには指数関数的な進化を前提として常識を超えて考えること、様々な業界を交えた異種混交格闘戦こそ重要です。医療だけでなく様々な産業との融合が必要だと感じていますので、2月12日のイベントでは様々な方と交流できればと考えています。ぜひ会場でお会いしましょう。

写真右上画面内:株式会社シェアメディカル 代表取締役 峯啓真 氏

小林泰之
聖マリアンナ医科大学大学院医療情報処理技術応用研究分野 教授
デジタルヘルス共創センター 副センター長

一般社団法人聴診データ研究会 理事
放射線科医師ではあるが、現在はヘルスケアを含むあらゆる医療分野のAI/ICT化を推進している。医療分野におけるAI/ICTの新たな価値創造と社会実装、さらに医療AI人材育成を目指して産官学を横断して活動している。

峯啓真
株式会社シェアメディカル 代表取締役

聴診音をデジタル化するデバイス「ネクステート」の開発者。現場思考で現場医師が抱えていた「聴診器の付け外しで耳が痛くなる」という課題解決を実現。多くの医師から感嘆をもって向かえられる。必要な医療を必要な人に届ける「ユビキタスヘルスケア」を提唱。遠隔聴診への挑戦を志している。

取材・編集
西山和馬
SUNDRED株式会社 ディレクター
ユビキタスヘルスケア産業のPMを担当。