2月12日に開催した「Industry-Up Day 2020 Spring」の全文書き起こし企画。SUNDRED株式会社代表取締役CEO 留目真伸による「イントロダクションセッション」です。2019年7月のSUNDREDのローンチから約半年、この間の実践および仮説検証を経て、アップデートされた「新産業共創プロセス」について語りました。

 

新産業共創の今

こんにちは、留目です。

今日は、昨年7月にスタートしたSUNDREDの成長と、個別のプロジェクトの進捗について皆さんと共有したく、このようなイベントを開催いたしました。

まず簡単に、そもそもなぜ、私がSUNDREDという取り組みを始めたのかについては、お話させてください。

私が社会に出たのは1990年代の半ばです。そこから25年ちょっとが経ち、私もレノボ・ジャパンの社長を務めたりしていましたが、その中で大きな問題意識を持っていました。それは、日本が他の主要国に比べて全然成長していないということです。日本は新しい産業を生み出す機能を失っている。何か新しい仕組みがつくれないかと考えるようになりました。この想いに共鳴してくれた仲間が集まり、スタートしたのがSUNDREDです。

昨年7月以降、SUNDREDでは10個くらいのプロジェクトを動かしてきました。今日はその中で6つのテーマを、皆さんにご紹介する予定です。それらの内容をご紹介したいのももちろんですが、SUNDREDがどのように新しい産業を共創するプロジェクトを進めているのか、どのようなやり方が大切なのか、ということも皆さんと共有したいと思っています。皆さんからのご意見もいただきながら、日本流の新産業創造の仕組みを確立していきたいと考えています。

現状の課題

今、多くの大手企業が新規事業創出に取り組んでいますし、スタートアップの活動も活発化しています。ただ、ここから「新しい産業」と呼べるレベルのものが生まれるかというと、残念ながら上手くいっていないと言わざるを得ません。

SUNDREDはこの構図を打破するために挑戦しているわけですが、やり方、考え方をアップデートしていく必要があります。まず、私たちが大事にしているのは、3つの新しい概念で、すなわち「新しい目的」「新しい関係性」「新しい共通言語」です。

もう少し具体的に言います。

 

「新しい目的」とは、実現すべき未来であり、目指すべき「共通善」とも言えます。これが新しい産業のテーマになります。「新しい関係性」とは、新産業創造に多様なプレイヤーを取り込み、それが機能するためのエコシステムのことを指します。「新しい共通言語」は、新産業創造に関わる関わる企業が持つべき、イノベーション経営のためのOSです。

 

新産業創造を上手く進めようとするのであれば、この3つの概念を強く意識する必要があります。逆に、上手くいっていない進め方には、この3つの概念が欠けているとも言えます。

日本の大企業は、みんな横並びで似たような事業づくりをそれぞれ、個別にやっています。しかし、そのような小さな流れからは大きな産業レベルのビジネスは生まれません。尖ったスタートアップがいても、それをみんなで育てるような動きもできていません。

結果、人材も資金も分散してしまっています。これを集約して、産業を育てるというレベルに向かわせなければいけない。そのためにSUNDREDは、先ほどの3つの概念を基礎に、新産業創造の仕組みをつくっているわけです。

私たちの仕組みは「新産業創造スタジオ」といいます。いろいろな人が、それぞれが持つリソースや強みを集約させてつくる映画と似ているということで、「スタジオ」と名付けています。企業だけでなくVCやアクセラレーター、インキュベーター、さらにはプロフェッショナルやフリーランスなどが関わり、オープンな関係性の中で産業を育てていきます。

当初の仮説と見えてきたもの

このような考え方に立ってSUNDREDはスタートしたのですが、具体的な方法論については当初から仮説を持っていました。

まず新産業創造のプロセスですが、大きく分けて4つのステージがあると考えていました。「課題解決の仮説立案」から始まり、「エコシステムのデザインとプロトタイピング」に続き、「事業体の設立と強化」「アクセラレーション/スケーラレーション」と進む流れです。解決すべき課題があり、それを解決するための仮説を考えるのは通常の事業づくりと変わりませんが、産業として成立、成長させるためのエコシステムを予め考えるというところがポイントです。そして、そのエコシステムをまわしていくための事業体をつくり、育てていくというのがSUNDREDのユニークなポイントです。

新産業創造のためのエコシステムとは何か。

鍵になるのが「トリガー事業」です。トリガー事業とは新産業の中核になり得る事業で、非常に大きなポテンシャルを持っている事業です。そして、そのポテンシャルを最大限に発揮し、早期の成長を実現するための「プラットフォーム事業」を構想します。こうやってつくられたプラットフォーム事業の上に、さらなる「アプリケーション事業」が生まれてくる。このエコシステムが機能することで、産業と呼ぶべき厚みを備えたビジネスがつくれると考えています。

トリガー事業はどのように生み出すのか。

これも3つの方法があります。産業を生み出したいと願う企業同士が集まり、トリガー事業を構想する「共創会モデル」。大企業で進められている新規事業案を社外に出し、場合によっては外部資本も入れて成長させる「カーブアウトモデル」。そして、有望なスタートアップを急成長させる「スケールアウトモデル」です。

これらの仮説に基づき、SUNDREDではこれまで、プロジェクトを動かしてきました。

仮説の多くは、上手くいったと思っています。一方、修正が必要な部分もありました。今日はそのアップデートについてもお話したいと思います。

私たちはこの半年弱の期間で学んだ、もっとも大きなポイントはプロセスの部分です。先ほど、4つのプロセスをご説明しましたが、これだけでは足りないということが理解できました。

では、何が必要だったのか。エコシステムの仮説を考える前に、「目的の共創」と「チームの組成」というプロセスを踏むことが一番大事なんです。これができるかどうかで、プロジェクトが上手くいくか、いかないかが決まるんです。

産業を生むための熱源

「目的の共創」や「チームの組成」をもう少し具体的に説明するために、「ユビキタスヘルスケア産業」を実例に挙げてお話します。

ユビキタスヘルスケア産業のトリガー事業は、シェアメディカルというスタートアップが提供している『ネクステート』というデジタル聴診器です。この聴診器を入口に、医療のデジタル化を推進するプロジェクトです。

ネクステート自体、聴診器を通じて患者のデータをデジタルで取得できます。遠隔医療もできるようになります。これ自体は非常に大きな可能性を秘めている。データを使って、なにかビジネスができそうだ。ここまでは誰でも思いつきます。

ただ、「聴診器で得たデータを使ってデータビジネスをやりましょう」という目的を掲げるだけでは動かないんです。医療のデジタル化や遠隔医療という話になると、おそらく皆さんも想像がつくと思いますが、関係省庁や医師会などとの調整がとても大変です。最初は、ヘルスケアデータは流行りだし、なんとなく旨味がありそうだという感覚で入ってきた人たちは、こういう壁にぶち当たると、みんないなくなってしまいます。世の中に多くある、コンソーシアムや勉強会は、だから上手くいかないんです。

データビジネスというのは、本来は手段であって目的ではないんですね。医療のデジタル化、ヘルスケアデータのビジネス化を通じて、一体何を成し遂げたいのかという共通の目的が必要なんです。それがあれば、高い壁も乗り越えていけるわけです。

ですので、ユビキタスヘルスケアでは、まずはこの問題について真剣に考える人が集まり、この産業が目指すビジョンを議論し、決めました。目的の共創と、チームの組成です。ビジョンが固まってくると、「儲かりそうだからやりたい」ではなく「面白そうだからやりたい」「社会をよくするために、やらねばならないことだ」という意識が芽生えてきます。会社の役職や専門領域を越えて、この産業の実現に協力したいと言ってくれる人も出てきます。この熱量が、産業を生み出す原動力なんだと思うのです。

もう一つの事例です。「ビューティーインテグレーション産業」です。

じつはこれ、私がレノボにいるときから取り組んでいるテーマです。例えば美容室、非常に数が多くて競争が激しい。仕事は労働集約的だし、デジタルもほとんど導入されていない。

レノボとしては、ここにタブレットを売り込んで解決できないかと模索していました。でも、上手くいかないんです。「タブレットを売りたいから」という動機だけで、複雑な業界の課題に取り組む営業マンなんていないからです。

もっと広い目線で、ビューティーとは何か、人が美しく暮らすためには何が必要か、というレベルで目的を考え、そのために何がやれるのかを考えていかなければならない。そこでこの産業では多様な人たちに関わってもらい、新たな目的を共につくっていきました。

既存のオープンイノベーションを超える

新しい目的をつくるために集まるチームの捉え方も、変わってきます。

 

多様な人たちが集まることは前提なのですが、関係性が違います。SUNDREDではこれを「クエストチーム」と呼んでいます。RPGのクエストです。勇者がいて、戦士がいて、魔法使いがいて、賢者がいる。それぞれが、自分の強みを活かしてチームに貢献する。仲間なんです。支援する側とされる側がはっきりしていたり、誰かの頑張りに乗っかればいいと思ったり、という関係性ではないんですね。また、会社の社命で取り組むのではなく、個人の目的意識とリンクして参加してもらうことも大切です。

 

共通の目的をつくることで、多様なメンバーが等しく「自分ごと」として取り組んでいけるクエストチームをつくることが重要です。そこでは、深い対話が行われます。共感を築くために語られる言葉は”ナラティブ”と呼ぶべきものになっていきます。

 

今、オープンイノベーションの必要性が様々なところで叫ばれていますが、従来型のオープンイノベーションの方法論とはだいぶ異なることがご理解いただけるのではないかと思います。

冒頭に申し上げたとおり、本日のイベントではSUNDREDが取り組んできた6つのテーマをご紹介します。それぞれまだ、クエストチームを募集している段階です。ぜひ、興味のあるテーマを見つけていただき、コンタクトしていただきたいと思います。

※画像は2月12日時点のもの