
SUNDREDは2026年9月27日(日)、Incubation CANVAS TOKYO(東京都中央区京橋)にて、「第3回 ネイチャーガバナンス、ネイチャーポジティブについて『知る』『語る』『考える』〜地域×自治体×企業×スタートアップ連携の最前線〜 TOKYO SUTEAMプログラム中間経過発表」を開催しました。
本イベントは、東京都「TOKYO SUTEAM」の採択プログラムとしてSUNDREDが運営する「ネイチャーガバナンス・スタートアップ・プログラム」の中間発表会です。2025年10月のスタートから約1年間の歩みを振り返るとともに、実証実験に挑むスタートアップの最新状況、東北大学の小田切裕倫氏を迎えたパネルディスカッション、スタートアップ同士の共創を考えるワークショップを実施しました。採択スタートアップや支援人材(伴走者)に加え、ネイチャーポジティブ産業に関心のある多くの方にご参加いただき、オンライン参加者を含め約40名が集まりました。

司会進行はSUNDREDの中谷が務め、冒頭ではSUNDRED代表取締役 CEO 兼 GMの留目真伸が本企画の趣旨と今後の展開について紹介しました。TOKYO SUTEAMの狙いをはじめ、今後1年半のスケジュール、バッチ1でPhase2に進んだスタートアップの実証実験、これから実施するスタートアップ支援や人材育成のプログラムについて共有しました。
続いて中谷から、2025年10月から2026年9月までの歩みを、バッチ1のPhase1・Phase2を中心に振り返りました。
2025年11月のキックオフイベントでは、「VISUALIZATION(可視化・評価)」「REGENERATIVE(再生・回復)」「OPTIMIZATION(最適化)」「ALTERNATIVE(代替素材・新技術)」「ECOSYSTEM(エコシステム基盤)」の5つのアジェンダを設定し、参加者とともに150件以上のアイデアを出し合いました。これによってアジェンダの解像度が大きく上がり、その後のスタートアップや支援人材の募集につながりました。
支援人材向けには、「ネイチャーポジティブの考え方・捉え方」「事業化」「スタートアップ支援のポイント」「社会実装の勘所」などをテーマにした育成セミナーを開催し、インプットとワークショップでのアウトプットをセットで行ってきました。2月にはスタートアップと支援人材が対面で出会うミートアップ兼ワークショップを実施。スタートアップによる出展・ピッチや、アジェンダごとのグループワークを通じて、各社がネイチャーポジティブのエコシステムの中でどんな役割を担っているのかを確かめ合い、連携することで初めて大きな課題の解決に向かえるという一体感が生まれました。
そのほか、オンラインでの交流セッション、Slackでのオンラインコミュニティ運営、スタートアップへのインタビュー記事の発信を重ねてきました。さらに、スタートアップの実証フィールドを探すため、SUNDREDのネットワークや運営メンバーのつながりを生かして企業・自治体・大学などに働きかけ、20以上の組織と直接対話し、多くの打ち合わせを実現しています。

バッチ1でPhase1に採択した13社のうち、Phase2に進んだ8社から、株式会社マウンテンビューの定山氏、幸海ヒーローズ合同会社の富本氏、株式会社イノカの竹内氏の3名にご登壇いただき、事業の取り組みと実証実験の進捗をご報告いただきました。
また、バッチ2からPhase2に進むスタートアップとして、実証実験の内容が確定している株式会社Story Agent、実施に向けて準備を進めているAbnous Podia Invest&Architect株式会社、aora株式会社、雅プロ株式会社の4社を紹介し、各社の代表から意気込みを語っていただきました。今後は10月にスタートアップと支援人材(プロボノ)のマッチング面談を行い、実証実験の計画づくりとメンターとの連携を経て、2月にかけて伴走支援のもとで実証と事業推進を進めていきます。
パネルディスカッションに先立ち、東北大学 ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点 運営統括 ビジョナライザーの小田切裕倫氏に、東北大学で進めるCOI-NEXTの取り組みについてお話しいただきました。
ネイチャーポジティブは一つの事業者や一人の力では解決できず、時代や地域によってその意味も変わります。同拠点は「ネイチャーポジティブ発展社会とは何か」という社会像や生き方を問い続け、研究やサイエンス、ファクトと現実の社会課題を往還させる「研究と社会実装をつなぐ設計装置」を目指しているといいます。
また、かつての「物をつくれば大丈夫」「給料が上がる」といった安心感に代わり、自然資本・人的資本・社会資本といった貨幣以外の資本が蓄えられ、運用される未来こそが新しい安心感になり得るという問題意識を紹介。研究と社会を「二本柱」として行き来する仕組みや、研究者をスポーツ選手のように周囲が支える大学の新しいあり方についても、「Jリーグのように裾野が広がれば、ワールドカップに行く人も増える」という例えを交えて語られました。
現場の論点としては、自然の状態をどう把握するか、それをどう産業につなげるか(唐津市のイカ、養殖サバの赤潮対策などの事例)、地域ビジョンの合意形成や税金以外の資金の流れをどうつくるか、の3点を提起。「研究と実践を混ぜ、大学・研究者をもっと身近に。僕らを使い倒してほしい」というメッセージでトークを締めくくりました。

続くパネルディスカッションでは、小田切氏、バッチ1でPhase2に進んだマウンテンビューの定山氏と幸海ヒーローズの富本氏、SUNDREDの留目の4名が登壇し、インプットトークを踏まえてネイチャーポジティブの実現に向けた課題と打開策を議論しました。
最も難しいのは地域の合意形成だという声が上がりました。関係者とビジョンを共有し、納得と共感を得て動いてもらうまでには、地道な調整と仲間づくりが欠かせません。漁協など組合単位でプロジェクト化するには「漁師がいくら儲かるか」という経済性を示す必要があること、大企業は大規模な案件でないと動きにくく小さな実証では検討の俎上に載りにくいこと、価値として認められる前の実験段階が続くことで地域が「実証疲れ」してしまうことも課題として挙げられました。
小さな成功事例をつくり、「あそこが良かったならうちも」と広げていくスピード感が有効だという意見が出ました。環境大臣賞のような第三者の評価も後押しになります。そして最も必要なのは、企業の担当者、地域のプレイヤー、金融・保険をつなぎ、社内の稟議が通る形に仕立てるプロデューサーやコーディネーター、とりわけ「翻訳者(トランスレーター)」の存在だという点で一致しました。情報開示やスコープ3、TNFDなどの枠組みを使って企業の経営判断や新規事業の種につなげることも鍵になります。
植林が本当に生態系にとって良いのかといったように、ネイチャーポジティブは「状態が良くなった」と判断すること自体が難しい領域です。従来のアカデミアは論文で問題を指摘して終わることが多かったものの、これからは「ではどうするか」まで踏み込み、社会実装と往還することが大学の役割だと語られました。
石狩市との実証や、仙台市で環境部局だけでなく企画政策・スタートアップ支援の部署とも連携している事例、関西での大和ハウス工業の産官学プログラムへの参画などが紹介されました。一方で、行政の縦割りや、海・森林・流域ごとに分断されたスコープは課題として残っており、「海業」への転換や海のクラスター形成の必要性も議論されました。
ネイチャーポジティブの産業化には「地域の合意形成」「経済性の証明」「つなぎ役(トランスレーター)」の3つが欠かせません。大学が社会実験と情報の翻訳を担い、企業・地域・金融を面でつなぐエコシステムをつくることが急務である、というメッセージでディスカッションを締めくくりました。
後半は、SUNDREDパートナーの岡本克彦がファシリテーターを務め、ワークショップを行いました。テーマは「各スタートアップの単体事業の価値を、ネイチャーポジティブ産業という総体での価値に拡張する」。スタートアップ同士の相互補完(+とー)や価値共創(×)を考え、この場にいる「私たち」が生み出すネイチャーポジティブ産業を描くことを目指しました。
冒頭では、Phase2に進むスタートアップ6社がピッチを行いました。
その後、参加者はグループに分かれ、各社の「強み・価値(+)」と「伸び代・不足(ー)」を洗い出したうえで、補完し合える組み合わせや、掛け合わせて生まれる新しい価値・事業について対話しました。
グループ1「ロスフラワーからバイオマテリアル産業への拡張」
RINのロスフラワー事業を起点に、Story Agentの発酵・醸造技術、Abnous Podiaの素材加工技術、スポンサーネクサスの実証フィールドや企業連携の機能を掛け合わせ、化粧品、香料、機能性素材、ビール原料などへ用途を広げる構想を描きました。都市部の企業資金を地方の資源循環につなぎ、既存事業の収益基盤を保ちながら段階的に産業化を進めることの大切さも確認されました。
グループ2「地域の小規模醸造所を核とした循環型産業の創出」
Story Agentとスポンサーネクサスを中心に、牡蠣殻やロスフラワーなどの未利用資源をビールや商品開発に生かす構想を議論しました。クラフトビール単体では収益性に限界があるという課題を踏まえ、企業連携による資金調達や成果の可視化、マーケティング支援を組み合わせ、ビールを地域への関心を集める入口として多様な商品へ展開する方向性が示されました。
グループ3「未利用資源の素材化と新しい社会的習慣の創出」
Abnous Podiaのバイオマス加工技術と雅プロの牡蠣殻再資源化を組み合わせ、大量の貝殻を建築用の接着剤や床材などの素材に変える可能性を議論しました。さらに、ネイチャーポジティブ産業の本質は資源循環に関する新しい「社会的常識」をつくることにあるという意見が出され、スタートアップ同士が共通のビジョンを持って連携し、人々の習慣や価値観を変えていく必要性が共有されました。
6社が持つ未利用資源、素材加工や発酵の技術、商品開発力、地域ネットワーク、企業連携の機能を掛け合わせることで、環境価値と経済価値が互いに高まる新しい産業をつくれる可能性が見えてきました。一方で、加工・物流コストや市場開拓といった収益面の課題、共創する際の役割分担や資金調達、利益配分の整理も必要です。今後は、ロスフラワーの高付加価値素材化、牡蠣殻の建材利用、地域循環型クラフトビールなどを候補に、具体的な共創プロジェクトの組成と実証に取り組んでいきます。

イベント終了後はネットワーキングと懇親会を行い、登壇者、スタートアップ、支援人材、参加者の皆さまが交流を深めました。
ご登壇いただいた小田切様、定山様、富本様、会場をご提供いただいたIncubation CANVAS TOKYOの皆さま、ご参加いただいたすべての皆さまに心より御礼申し上げます。SUNDREDは今後も、ネイチャーポジティブの産業化に向けて、スタートアップと多様なセクターの共創を後押ししてまいります。