美容サービス業界は、まさに課題が満載
10/31(木)、神宮前のWeWork Icebergにてイベント「美容サービス業界の『実現すべき未来』とは?」が開催されました。その模様をレポートします。
ビューティ&ヘルスケア領域で新たなビジネスモデルを開発しながら事業成長を遂げている株式会社ダイアナと、社会起点のアプローチで100個の新産業の創出に取り組んでいるSUNDRED株式会社が共鳴したのが、このイベント開催のきっかけ。美容サービス業界における『実現すべき未来』、新しいエコシステムはどうあるべきなのでしょうか?
会場となった表参道のWeWork(Iceburg)には100人を超える聴衆が参加し、立ち見も多数でるほどの大盛況。
まずは司会の株式会社Dサクセッションパートナーズ高畑公志さんより、美容サービス業界の市場状況をイントロダクションとして説明いただきました。
高畑さんからは、「24万軒」「270万円」「1年 50%、3年 80%、10年 92%」という具体的な数字が提示されました。
24万軒は、日本国内の美容室の数、270万円は美容師の平均年収。そして「1年 50%、3年 80%、10年 92%」は美容師の勤続年数に対する離職率。なんと1年で50%、3年で80%、10年で92%の人が離職をするそう。
ブラック企業といわれる企業ですら1年で30%程度といわれるため、これは驚くべき数字といえます。
美容室の数は年々増加している一方で、美容師の離職率は非常に高く、平均年収も高いとは言えません。SUNDRED株式会社 代表取締役 / パートナーの留目真伸さん曰く「この業界の主役である美容師にとってはなかなか厳しい環境であり、業界として『実現すべき未来』を描けていない状況にあります」とのこと。
登壇者の自己紹介からも「業界が変わっていない」「変えなきゃいけない」というワードが飛び出します。ではどうすれば変わるか、どう変えるべきなのかが語られます。
新しい動きとプレーヤー
一例として、ダイアナのウィッグ事業が紹介されました。これはウィッグのメンテナンスを約750店舗のフランチャイズ店舗だけでなく、一般の理美容室とも連携して行うことで、美容室の稼働率の向上と経営の安定を図り、さらにお客様に対しても従来の工場依頼でのメンテナンスよりも待ち時間を短縮するという、まさに三方良しのモデルです。
株式会社ダイアナの徳田充孝・代表取締役社長は、「働く人が豊かになれるモデルにしなければ、この業界の未来はない」と力強く語りました。
一方、LiME株式会社の古木数馬さんは、現役の美容師・サロンオーナーとして活動するかたわら、美容師やサロンが容易にカルテ管理を実現しお客様とコミュニケーションのできるWEBサービスを立ち上げて、全国に展開。時間のない中で手軽に顧客管理ができることで、お客様の満足度をあげてリテンション(再訪)につなげるという課題解決に取り組んでいます。
パネルディスカッションは白熱した議論に
パネルディスカッションでは、こうした新しい動きを拡大していくためには、どうすればいいのかが語られました。
登壇したのは前述のダイアナ徳田さん、 LiME古木数馬さんに加えて、渋谷区議会議員の中村豪志さん、株式会社ナイアンティック アジア・パシフィック プロダクト・マーケティング シニア・ディレクターの足立光さん。
モデレーターの留目さんからは「 新たな価値観に基づく未来像は?」「マーケティングのあり方は?」といった問いが提示され、白熱した議論になりました。
留目:Industry 4.0、Society 5.0の新しいパラダイムに基づき、あらゆる産業がこれまでの業界構造を超えて新しい形に変わろうとしています。一方で美容サービスの業界は他の業界やインターネット上のサービスに無いユニークな強みを持っているにもかかわらず、それが必ずしも顧客やサービス従事者にとって望ましい形で付加価値に変えられていない。本来持っている強みを活かしきれていない。結果として、今の苦しい状況があります。巨大なプレイヤーが存在する訳では無いのでなかなか難しいのですが、業界全体をどうトランスフォーメーションしていくのか、ということが一番大事じゃないかなと思います。
左から、ダイアナ徳田さん、 LiME古木数馬さん、渋谷区議会議員の中村たけしさん、ナイアンティック シニアディレクターの足立光さん
徳田:1000円カットが出てきた時点で、もうえげつない同質化の戦いが行き過ぎた状況にある。だから業界自体を変えないといけない。今はネットの世界でもネットとリアルの融合が言われ始めている。そういう意味では美容業界はリアルの宝庫です、しかも濃密な「顧客接点」を持ってる。正直、優秀な美容師はなんでも売れる、家でも車でも売れる。また、リアルな接点を持つ事で、家族構成や趣味などのパーソナルな情報、昨日何処へ行った、今度は何処へ行くなど、パーソナリティに基づく行動データのようなネットでは取得しにくい「リアルなマーケティングデータ」にアクセスでき、これらのデータ蓄積は貴重な資産となり得る。
足立:美容師さんは、自分が美容師だという考えを捨てなきゃいけないと思うんです。2時間とか人を拘束できるってのは、実はすごく貴重な職業なんですよ。 むしろ自分がネットワークの中心にいる、ネットワークビジネスと思うべき。
留目:私はこれは「関係性産業」だって思ってます。その価値の本質を改めて認識していかないといけないと思うんですよね 。
美容師とお客様がパーソナルにつながる理想像
古木:美容業界はガラパゴス、逆に開拓すれば大きい。すでに集客サービスの規模は700億円以上もあります。でも集客の方法が集中しすぎていて、価格訴求中心かつクーポン合戦であまりリテンションにフォーカスしていない。いまはインスタグラムもあるし、美容師やサロンがお客様がパーソナルにつながれる仕組みがもっと必要です。
足立:どの店に行こうではなく、あの人の店に行こうということですよね。弁護士、コンサルタント、キャバ嬢(笑)、みんなそうです。そういう意味では SNS で個人として発信するのも大事。ただし日本の人口の半分はシニアだからSNS頼みだけでもダメで、お祭りとか色々な場において街の人気者になるしかない。業界を超えて外に行く個人にならなければいけない。
中村:お客様の趣味とかパーソナルデータを活用したり、それを手軽にカルテ管理できる仕組みが必要ですよね。あと差別化や他業界との連携でいうと、タイムバリューをどう考えるか。例えば出張先でもカルテに基づいていつもの美容室と同じように髪の毛を切れたらとか、新しい連携はそういう発想にあるんじゃないかと思ってます。
留目:親和性でいうとヘルスケア業界と連携したり、いろいろ考えられますよね。そのためには、目的志向で体系的なカルテにして、活用できるデータになっていないといけない。
足立:もちろんデータやカルテ管理も大事なんですけど、肝心なのはお客様と「何を話したか」ってことです。銀座でトップレベルのクラブのホステスはそれを全部メモっているし、究極は誕生日にメールをしましたかって話です。そういうことがあっての「関係性産業」なんだということを美容師が意識しないといけない。
可能性を秘めた業界をいかに魅力的にできるか?
パネルディスカッションのまとめでは、今後「美容サービス業界が魅力的なマーケットになるには?」という問いが。
中村さんは「投資を受けるためにはビジネスが伸びなければならないし、ESG投資の観点ような社会課題をいかに解決しているかという視点も必要」、古木さんは「事実としての変化や成果が重要。まずは働いている美容師が輝けるようにならないと」、徳田さんからは「最終的にはお客様とつながり、そして数を集めないと変わらない」という意見が出ました。
ちょっと違った視点で意見を述べたのは、元シュワルツコフ・プロフェッショナル日本代表として美容業界に携わった経験がある足立さんでした。
「美容サービス業界を魅力的にするという発想ではダメだと思う。なぜなら人口比あたりの店舗数が圧倒的にオーバーストアだから。欧米並み、いまの半分くらいにならないと収益構造はよくならない。だから美容師という個人やサロンがまず差別化をしていって、その集合体として業界が魅力的になるのを目指すべきです」
「ここは結論を出す場ではなく、問いを深める場。これから魅力的な業界にしていくために共創していきましょう」という留目さんの結びの通り、美容サービス業界は実はとても大きな可能性を秘めているということが、多くの人にリアルに伝わったと思います。
この後の懇親会でも、WeWorkの素晴らしいスペースのあちらこちらで、活気あるディスカッションがかわされていたことが、それを物語っていました。
ここで生まれた新たなコミュニティが、どう発展しどう美容サービス業界を変えていくのかに、ご期待ください!