【 Industry-Up Day 2020 Spring 】Interview Vol.1 – ビューティインテグレーション産業特別対談 –

業界構造が課題を生み出す

写真右:株式会社ダイアナ 代表取締役社長兼会長 徳田充孝 氏
写真左:SUNDRED株式会社 代表取締役/パートナー 留目真伸 氏

留目 今日は2月12日に開催予定の「Industry-Up Day 2020 Spring」の特別対談企画ということで、美容業界への課題意識や業界が実現すべき未来について、お聞きしたいと思っています。

徳田 美容室の過剰供給の課題から話を始めましょうか。美容業界には様々な課題がありますが、店舗の数と増え続ける店舗は業界問題の一因になっていると思います。データを見ると美容免許の交付数は年々下がっていますが、一方で美容室の数は増え続けています。

留目 独立開業して店舗を持つ美容師が増えているということですね。

徳田 はい。開業する方が増えている。しかし、市場規模は美容は1兆5000億円、理容は6000億円とほぼ横ばいのため、苛烈な顧客の獲得競争が慢性的に起こっています。

留目 開業している美容室が約24万軒。この数は多すぎる気がしますね。独立開業の夢を持って業界に入る人材が多いことや美容業界のきらびやかなイメージが開業を後押ししているのでしょうか。

徳田 就職前後でのギャップは存在すると思いますし、業界の離職率に表れているかもしれません。美容師の離職率は就職後1年目は50%、3年目で80%、10年目で92%、と非常に高い。美容師の平均年収は270万円ほどなのですが、この給与水準ではキャリアの転換を考える人は多いでしょうね。

留目 平均年収の低さはそもそも美容室の収益性が低い点に課題があると感じています。以前私が美容関連業界にいた際に美容師や美容室のオーナーにヒアリングを行ったところ、すでにお話しした店舗過剰の他にも低価格化、集客とリテンションが難しい、顧客がクーポンを高頻度で利用する、差別化が難しいなど、課題を数多く抱えているように思いましたね。

徳田 シャンプーやトリートメント、ヘアケア商品など物販を行うサロンもありますが、美容師は物販の教育を受けているわけではありませんから、サロンの収益への貢献度は低いかもしれません。

留目 美容室は高い設備投資がかかる一方で融資を受けやすい環境にあるとも聞きます。独立開業しやすい環境が24万軒の美容室を生んだのではないかという仮説を持っています。高度経済成長期は独立開業モデルは良かったかもしれません。しかし、店舗過剰や少子高齢化など社会構造が大きくシフトしているため、美容室の新しい形態や経営手法を考えなくてはいけない時期に差し掛かっているのかもしれませんね。

「働く人が豊かになる」業界を目指して

留目 先日実施したワークショップでは、美容室オーナー、ディーラー、美容師、SaaS開発、教育、コンサルティングなど、美容業界に関わるステークホルダーを巻き込んで対話を行いました。その際に、この業界が抱える課題は構造的に生み出されている可能性があると感じました。私としては業界課題にステークホルダーが一丸となって取り組む必要性があるとともに、美容業界の「実現すべき未来」も明確にしていく必要があると考えています。徳田さんはどのようなビジョンをお持ちでしょうか?

徳田 「働く人が豊かになる業界を目指す」ことが重要だと思っています。これは、美容サロンに関係する誰もが目指しているビジョンかもしれません。

ダイアナでは美容室との提携による三方良しモデルを展開しています。美容室と提携し、お客様がいない時間帯にウィッグのメンテナンスを行ってもらう、生産性向上を目的とした取組みです。

ウィッグのメンテナンスを希望するダイアナのお客様が、ダイアナと提携している美容室(*美・アップモデル店舗)に直接行き、そこでメンテナンス・似合わせ(調整)するというモデルです。それにより、美容室は空き時間が技術売上に変わり、また新規顧客との接点ができる。お客様は、その場で似合わせができ満足度が高まるなど、関わる人全てが幸せになるモデルとなっています。

留目 私は業界をアップデートする2つのトレンドがあるという仮説を持っています。1つは就労環境の改善、ITツール導入など生産性向上などの業界共通課題の解決の促進。もう1つはダイアナさんが取り組まれているような新しいビジネスモデルや顧客体験の開発です。

業界共通の課題解決であれば、OaaS( オペレーション アズ ア サービス)の提供、顧客データや美容データのAIの利活用といったソリューションが考えられますし、実際にこの領域で新規事業を創る企業が増えてきているように思います。

徳田 ダイアナでも女性のプロポーションに関するビッグデータを所有していますが、美容サロンはデータの利活用という観点でかなり可能性を秘めていると思います。美容関連の異業種との連携もそのうちの1つですね。

留目 頻度は人によって違いますが、髪は誰もが切る行為。つまり、美容サロンは最強の顧客接点とも言えます。ここに新産業を共創する可能性があると私は考えています。ただ、美容室をターゲットにしたSaaSの場合、開発と同時に美容室に対して地道な営業活動をしないといけません。不確実性の高いスタートアップには参入障壁が少し高い。

そこで、ダイアナさんのように新規事業に積極的に取り組まれている企業や課題解決に前向きな美容室と共創していくことで、新サービスの仮説検証と実装がスムーズになっていくのではないかと考えています。

徳田 「働く人が豊かになる」という目的が一致すれば、私たちは共創を歓迎しています。自社のビジョンの中にも業界内外との共創を明言していますからね。

留目 2月12日当日は他の登壇者の方も交えて、美容業界が実現すべき未来や共創の可能性についてお話しできればと考えております。当日はSUNREDが開発した新産業共創プロセスを用いて明らかになった、美容業界のシステムや課題についても紹介したいと思っています。本日はありがとうございました。

徳田充孝
株式会社ダイアナ 代表取締役社長兼会長
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会理事
上場企業などの経営、再建に関わり株式会社ダイアナにて、トータルビューティ―をコンセプトに事業展開2014年MBOを実施し、更なる成長を目指す。全国に約750のFC店舗を展開し、2030年、4000店舗を視野に事業展開。

留目真伸
SUNDRED株式会社会社 代表取締役  パートナー
総合商社、戦略コンサルティング、外資系IT日系製造業等において要職を歴任。レノボ・ジャパン株式会社、NECパーソナルコンピュータ株式会社 元代表取締役社長、資生堂CSOを経て2019年7月よりSUNDREDの代表に就任し、「新産業共創スタジオ」を始動。

取材/編集
西山和馬
SUNDRED株式会社 ディレクター