
気候変動や生物多様性の損失を背景に、Nature Positive(ネイチャーポジティブ)やRegeneration(リジェネレーション)という考え方が、環境分野だけでなく、地域づくり、建築、企業活動、暮らしへと広がっています。
オムロン株式会社が1970年に発表した未来予測理論「SINIC理論」では、2025年以降を「自律社会」、2033年以降を「自然社会」と位置づけています。Nature PositiveやRegenerationの実践は、この「自然社会」とどのようにつながっているのでしょうか。
2026年8月20日に開催したSINIC実践コミュニティ第2回では、研究、建築、地域など異なる領域の実践者とともに、人・技術・社会・自然の関係を捉え直し、すでに始まっている「自然社会」の兆しと、そこから生まれる実践の一歩を探りました。

開催日:2026年8月20日(木)17:00〜19:00
※20:00までクイック懇親会
開催場所:品川フロントビル7階 RELA
東京都港区港南2丁目3番13号 品川フロントビル オムロン東京事業所
開催形式:会場参加+オンライン参加のハイブリッド開催
参加人数:約50名(オンライン:約30名)
参加費:無料
主催:株式会社ヒューマンルネッサンス研究所(HRI)
企画・運営協力:SUNDRED株式会社
SINIC実践コミュニティは、SINIC理論を学ぶだけではなく、一人ひとりが未来社会に向けた実践を持ち寄り、新たな活動やプロジェクトを生み出していく場です。
SINIC理論では、「最適化社会」の次に2025年から「自律社会」、2033年から「自然社会」へと社会が移行すると予測しています。また、2022年には、科学・技術・社会の相互作用の原動力について、「人間の進歩志向意欲」よりも「共生志向意欲」が重視される形へとアップデートされました。
今回取り上げたNature PositiveやRegenerationは、こうした社会変化を考える現在進行形のテーマです。技術を否定して自然に戻るのではなく、人間中心、成長最大化、コントロールを前提とした社会から、地球生態系や生命圏との共生、再生、循環を重視する社会へどう移行するのか。その兆しを具体的な実践から考えました。
登壇者:立石 郁雄 氏(株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 代表取締役社長)

オープニングでは、SINIC理論の基本的な考え方と、今回のテーマの位置づけが共有されました。
自動化社会、情報化社会、最適化社会を経て、自律社会、そして自然社会へ。これまでの人間中心、成長最大化、コントロールを前提とした社会から、地球生態系・生命圏との整合、共振・相互調律、再生・循環・持続を重視する社会へと、社会のOSそのものを転換していく必要性が示されました。
登壇者:中間 真一 氏(株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 エグゼクティブフェロー)

これまでの技術発展を「人間の能力を機械へ外部化してきた歴史」として捉えました。
自動化社会では身体能力、情報化社会では記憶や情報処理、最適化社会では予測や選択までが機械へと外部化されてきました。その延長線上には、人間の判断まで機械へ委ねる「全自動社会」という可能性もあります。
一方、SINIC理論では、その先に「自律社会」と「自然社会」が置かれています。中間氏は、技術にすべてを委ねるのでも、すべてを自分で行うのでもなく、何を委ね、何を自ら担うのかを選択することの重要性を指摘しました。
さらに、SINIC理論における「自然(じねん)」を掘り下げ、人・技術・生態系が相互に生成し合う社会を「Co-generative Society」として捉える視点も提示されました。
登壇者:
・小田切 裕倫 氏
東北大学ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点 運営統括/ビジョナライザー
・安齋 好太郎 氏
株式会社ADX 代表取締役
自然社会やNature Positive、Regenerationが、実際の現場でどのように形になり始めているのか。研究・社会実装と、建築・暮らしという異なる領域から実践が紹介されました。
小田切 裕倫 氏|Nature Positiveを地域の実践へ

東北大学ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点における取り組みが紹介されました。
自然の状態を知るだけではなく、その知見を社会や企業の意思決定につなげ、自然の価値を社会の中で生かす仕組みをつくること。そして、それぞれ条件の異なる地域で実践し、地域同士をつないでいくことが重要なテーマとして示されました。
安齋 好太郎 氏|建築から自然との距離を縮める

建築や暮らしを入口に、人と自然との関係をつくり直す実践が紹介されました。
自然の中に建築する際には、人間側の都合で環境を大きく変えるのではなく、「自然にお邪魔する」という姿勢を大切にすること。木を適切に利用しながら森林の価値や循環につなげること。そして、自然を情報として知るだけでなく、暑さや寒さ、雨、風、火、木の手触りなどを身体で経験することの大切さが語られました。
登壇者:小田切 裕倫 氏/安齋 好太郎 氏/北埜 航太 氏(間(あわい)、一般財団法人伊那谷財団 理事、JR東海 conomichi 編集ディレクター)/立石 郁雄 氏/留目 真伸 氏(SUNDRED株式会社 代表取締役 CEO 兼 GM)

パネルディスカッションでは、異なる領域の実践を「自然社会」という視点から捉え直しました。
立石 郁雄 氏は、社会の仕組みを変えるだけでなく、「人自身がどう変容するのか」に向かう実践が増えていることに着目。点在する実践者同士をつなぐことで、人や社会の変容が加速する可能性を指摘しました。
小田切 裕倫 氏は、Nature Positiveの実現そのものだけではなく、「その先で人がどう変わるのか」という問いが重要になってきたと語りました。大学、教育、キャリアなど既存のレールが変化するなか、人と人、人と自然との関係を原点から構築し直す必要性を示しました。
安齋 好太郎 氏は、建築の役割も時代とともに変化すると指摘。これからは、自然から人を守るだけではなく、「人が安全に自然へ行き、滞在できるようにする」ことも建築の新たな役割になると語りました。
北埜 航太 氏は、地域と企業の関係に触れ、大企業がすぐに大きく動くことは難しくても、地域という具体的なフィールドだからこそ、新しい仕組みや事業を試すことができると話しました。
留目 真伸 氏は、これまでの「人間のための発展」を1周目とすれば、今は、人間だけではなく命あるものすべてのための社会をつくる2周目が始まりつつあるのではないか、と議論を整理しました。
最後に立石氏は、今回の実践者たちを「違うOSの人たちの動きが始まっている予兆」と表現。異なる場所で生まれている実践がつながることが、自律社会から自然社会へのトランジションにつながる可能性が共有されました。

最後は、「自然との関係性の変化から、問いを設けて、実践の一歩へ」をテーマに、会場・オンラインそれぞれで対話を行いました。
参加者は、
印象に残ったこと → なぜ気になったのか → 探究したい問い → 30日以内のネクストアクション
を考え、聞いて終わるのではなく、自分自身の次の一歩へつなげました。
参加後アンケートでは、平均満足度は4.4/5.0。回答者全員が「満足」以上と回答しました。
参加者からは、
といった問いが生まれました。
また、「30人にNature PositiveとRegenerativeのどちらがしっくりくるか聞く」「自然に触れるため山に入る」など、具体的な行動にもつながっています。
「『同時多発的な変革』がポジティブな結果をもたらすか、ネガティブな結果をもたらすか、その境目はなんだろう?」
「変人から一般の方にどうやって裾野を広げていくのか」
「自己変容を内発的に起こすために、経験したことがない/予測できない/コントロールできないものとの関係性の中に身を置いてみる」
Nature Positiveや自然社会が、環境だけのテーマではなく、自分自身の生き方や社会との関係を問い直すテーマとして受け止められていたことがうかがえます。
SINIC実践コミュニティでは、今後も異なるコミュニティ、地域、企業、研究者、実践者との接続を広げながら、未来社会に向けた具体的な実践を生み出していきます。
第3回は、2026年10月15日に「地域」をテーマとして那須で開催する方向で企画を進めています。地域の現場を実際に訪れ、そこで活動する実践者、企業、自治体、アカデミアなどとともに、地域から未来社会を考える場を目指します。
詳細は、決定次第ご案内します。
SINIC理論
オムロン創業者・立石一真らが1970年に発表した未来予測理論。科学・技術・社会が相互に影響しながら発展する未来を捉える理論。
自律社会
SINIC理論において2025年以降に位置づけられる社会。個人の自立、多様な主体との連携、新しい価値の創造が重視される社会。
自然社会
SINIC理論において2033年以降に位置づけられる、人・社会・技術・自然が調和し、循環する社会。
Nature Positive(ネイチャーポジティブ)
自然や生物多様性の損失を止めるだけでなく、回復・再生する方向へ社会・経済活動を転換していく考え方。
Regeneration(リジェネレーション)
現状維持にとどまらず、自然、地域、社会、人の関係を再生し、より健全な状態へ育てていく考え方。
共創(Co-creation)
異なる主体が知見や資源を持ち寄り、共通する目的に向けて新しい価値や仕組みを生み出すこと。